東北医科薬科大学 糖尿病代謝内科

研究紹介

抄読会
2026年度
2026月3月31日

Obesity Treatments and Weight Changes in Clinical Practice After Discontinuation of Semaglutide or Tirzepatide.
Gasoyan H, et al.
Diabetes Obes Metab. 2026 Mar 12. doi: 10.1111/dom.70660. (PMID: 41816857)

(教授コメント)
本研究は、セマグルチドまたはチルゼパチド中止後の実臨床における体重変化と治療動向を検討した後ろ向きコホート研究です。オハイオ州とフロリダ州のクリーブランドクリニックの電子健康記録(EHR)を使い、肥満症または2型糖尿病の治療として注射用セマグルチドまたはチルゼパチドを開始し、治療開始から3~12ヶ月の間に投薬を中止した成人患者を対象としました。抽出された対象者は約8000例で、中止後1年以内に19.6%が同薬を再開し、35.2%が他の肥満治療(Phentermine、Topiramateなどの減量薬、生活習慣介入、手術など)を受けました。治療中止までの体重減少は肥満症治療群で−8.4%、糖尿病治療群で−4.4%でした。中止後1年の体重変化は肥満症治療群で+0.5%、糖尿病治療群で−1.3%と平均では体重のリバウンドがほとんど認められませんでしたが、個人差が大きいとのコメントがありました。
わが国での実態は不明ですが、セマグルチドやチルゼパチドは代謝領域で今後も頻用される薬剤ですので、米国における同薬中止後の臨床経過を知ることができました。


2026年2月23日

Effect of GLP-1 Receptor Agonists on Patients with Thyroid Carcinomas Undergoing Active Surveillance Patrizio A, et al.
J Endocr Soc. 2025 Nov 14;10(1):bvaf182. (PMID: 41376649)

(教授コメント)
低リスク甲状腺乳頭癌でアクティブサーベイランス中の患者において、GLP-1受容体作動薬の使用が腫瘍進行に与える影響を検討した後ろ向きの観察研究です。近年、GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病や肥満症治療で広く用いられていますが、動物実験(げっ歯類)ではGLP-1受容体作動薬が甲状腺C細胞の増殖にはたらくとの報告があるほか、ヒトの甲状腺濾胞細胞や甲状腺乳頭癌にGLP-1受容体が高発現しているとの報告があります。本研究では、アクティブサーベイランス中にGLP-1受容体作動薬の使用があった患者と使用がなかった患者を比較し、それぞれの群の腫瘍径や腫瘍体積の変化を評価項目としました。結果、GLP-1受容体作動薬の使用は腫瘍サイズの変化と関連を認めませんでした。興味深いことに、GLP-1受容体作動薬の使用期間と腫瘍サイズの変化は負の相関があり、GLP-1受容体作動薬を長期使用すると低リスク甲状腺乳頭癌のサイズが縮小する可能性を示唆しました。なお、GLP-1受容体作動薬の添付文書には「投与中は、甲状腺関連の症候の有無を確認し、異常が認められた場合には、専門医を受診するよう指導すること」「マウスで、甲状腺C細胞腫瘍の発生頻度の増加が認められたとの報告がある。甲状腺髄様癌の既往のある患者及び甲状腺髄様癌又は多発性内分泌腫瘍症2型の家族歴のある患者に対する安全性は確立していない」などと記載されています。


2026年1月6日

Once-Monthly Maridebart Cafraglutide for the Treatment of Obesity - A Phase 2 Trial.
Jastreboff AM, et al.
N Engl J Med. 2025 Sep 4;393(9):843-857 (PMID: 40549887)

(教授コメント)
本試験は、GLP-1受容体作動作用とGIP受容体拮抗作用を併せ持つ長時間作用型ペプチド抗体複合体maridebart cafraglutide (MariTide) の肥満治療効果を検証した第2相無作為化二重盲検プラセボ対照試験です。肥満のみの参加者と2型糖尿病合併肥満の2コホート、計592例が登録され、月1回または8週1回投与(用量固定または漸増)で52週追跡されました。主要評価項目は体重変化率で、肥満コホートでは12.3~16.2%、肥満・糖尿病コホートでは8.4~12.3%と、いずれもプラセボ(約2%)を大きく上回る減量効果を示しました。糖尿病合併例ではHbA1cも1.2~1.6%低下しました。有害事象は消化器症状が多く、新たな有害事象は認めらませんでした。以上より、MariTideは糖尿病の有無にかかわらず、月1回投与で有効な減量治療薬となる可能性が示されました。現在、臨床ではGIP agonism+GLP-1 agonismであるチルゼパチドが糖尿病と肥満症治療薬で使用されていますが、今回紹介したGIP antagonism+GLP-1 agonismであるMariTideも代謝領域での使用が期待されます。


2025年度
2025年12月9日

Prevalence of Hypercortisolism in Difficult-to-Control Type 2 Diabetes.
Buse JB, et al.
Diabetes Care. 2025 Dec 1;48(12):2012-2020 (PMID: 40249765)

Inadequately Controlled Type 2 Diabetes and Hypercortisolism: Improved Glycemia With Mifepristone Treatment.
DeFronzo RA, et al.
Diabetes Care. 2025 Dec 1;48(12):2036-2044 (PMID: 40550011)

(教授コメント)
抄読会で紹介された2つの論文は米国のCATALYST研究からの成果です。近年、標準的な薬物治療にもかかわらず血糖コントロールが困難な2型糖尿病が臨床上の課題となっています。その背景要因の一つとして、Hypercortisolismが関与する可能性が提起されています。前者の論文では治療抵抗性の2型糖尿病患者に1mgデキサメタゾン抑制試験(DST)を実施し、抑制不十分であった患者の割合を調査したところ、なんと23.8%もの高い頻度でDST異常を呈する患者が存在しました。この知見を受け、後者の論文ではDSTでHypercortisolismを呈した治療抵抗性2型糖尿病患者に対し、Mifepristone(グルココルチコイド受容体拮抗薬)の治療効果を検証しました。136 名を対象とした無作為化二重盲検試験を行い、24週間の治療によりMifepristone群ではHbA1cがプラセボ群よりも1.3%有意に低下しました。さらに体重やウエスト周囲径の減少もみられ、コルチゾール作用のブロックが代謝改善に寄与することが示されました。一方で、低カリウム血症や血圧上昇など既知の副作用が一定割合でみられ、治療中断率も高かったことにも注目する必要があります。両論文を総合すると、治療に難渋する2型糖尿病患者の一部は、従来の糖尿病管理(インスリン抵抗性、β細胞機能不全、食事療法、運動療法、体重管理、薬剤選択)では捉えられないHypercortisolismという病態を背景に持ち、その同定(DST)および治療介入(Mifepristone)が血糖改善につながる可能性を示唆しました。これからの糖尿病診療においては内分泌学的診療技能がより必要となるものと感じました。


2025年11月25日

Effectiveness of the presence of diabetologists for perioperative complications in patients with diabetes undergoing colorectal cancer surgery: A nationwide inpatient database in Japan.
Shikata M, et al.
J Diabetes Investig. 2025 Nov;16(11):2101-2110 (PMID: 40824066)

(教授コメント)
糖尿病をもつ大腸がん患者が手術を受ける施設に「糖尿病専門医」が在籍しているかどうかを調べ、周術期合併症の発生率との関連を分析しました。対象は2018年4月~2019年3月の24,714人(887施設)で、34%の施設には「糖尿病専門医」がいませんでした。調整後の解析により、糖尿病専門医がいる施設では周術期合併症が糖尿病専門医がいない施設に比べて約14%低く(リスク比0.86, 95%CI:0.77–0.96)、入院期間も短い傾向にありました。さらに、糖尿病専門医がいる施設では血糖管理がよりきめ細やかであった(入院中の血糖測定頻度やグリコアルブミン測定頻度が大)可能性が示唆され、こうした管理が周術期合併症リスクの低下に寄与したのかもしれません。高齢化が進む日本では糖尿病をもつ患者が増加しており、手術リスクは年々高まっています。周術期合併症を抑えることは患者の死亡率低下に直結し、術後のADL低下や長期的な生活の質の悪化を防ぎうる点において「糖尿病専門医」の病院における大切な役割を再認識しました。


2025年10月9日

Development of pituitary dysfunction and destructive thyroiditis is associated with better survival in non-small cell lung cancer patients treated with programmed cell death-1 inhibitors: a prospective study with immortal time bias correction.
Suzuki K, et al.
Front Endocrinol (Lausanne). 2024 Nov 7;15:1490042 (PMID: 39574956)

(教授コメント)
本研究は、進行非小細胞肺がん(NSCLC)患者を対象に、PD-1阻害薬(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)治療中に生じる内分泌系免疫関連有害事象(irAEs)と全生存期間との関連を、immortal time biasを補正した前向き研究です。Immortal timebiasとは「不滅の時間」や「不死の時間」バイアスとも呼ばれ、アウトカムに影響を及ぼします。irAEはPD-1阻害薬投与後すぐに発症するわけではないので、irAEが発症するまで生存できた患者が予後が良いという過大評価の可能性があります。対象は194名で、11例が下垂体機能不全(5.7%)、10例が破壊性甲状腺炎(5.2%)、5例が孤立性甲状腺機能低下(2.6%)を発症しました。時間依存型コックス回帰モデルにおいて、下垂体機能不全(ハザード比0.36, p = 0.045)および破壊性甲状腺炎(HR0.31, p = 0.044)は有意に長い全生存期間と関連していました。一方、孤立性甲状腺機能低下は有意な関連を示しませんでした(HR 1.15, p = 0.786)。名古屋大学のグループは、これらの特定の内分泌irAEsの発生が予後良好の指標になりうることを示しました。


2025年8月28日

Once-Weekly Mazdutide in Chinese Adults with Obesity or Overweight.
Ji L, et al.
N Engl J Med. 2025 Jun 12;392(22):2215-2225 (PMID: 40421736)

(教授コメント)
MazdutideはGLP-1/グルカゴン受容体デュアルアゴニストであり、本試験は中国人の過体重・肥満成人610例を対象とした第3相二重盲検プラセボ対照試験です。対象はBMI≧28、またはBMI≧24かつ併存症を有する成人で、Mazdutide 4 mg群、6 mg群、プラセボ群に無作為に割り付け、週1回48週間投与しました。主要評価項目である32週時の体重変化率は、それぞれ-10.1%、-12.6%、+0.5%であり、5%以上の減量達成率は73.9%、82.0%、10.5%でした。有害事象は主に軽度~中等度の消化器症状で、治療中止に至った割合はそれぞれ1.5%、0.5%、1.0%と低頻度でした。肥満症治療の分野では、GLP-1、GIP、グルカゴンという3つのホルモンが主要な薬物ターゲットとして揃いつつあります。今後、どの組み合わせが最も効果的かつ安全性に優れるのか、さらにはこれらの作用機序の解明を通じて、体重維持機構に関する生理学的理解が一層深まることが期待されます。


2025年7月15日

<https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40509916/> Rapid and Slow Progressors Toward β-Cell Depletion and Their Predictors in Type 1 Diabetes:
Prospective Longitudinal Study in Japanese Type 1 Diabetes (TIDE-J).
Noso S, et al.
Diabetes Care. 2025 Jun 13:dc250579 (PMID: 40509916)

(教授コメント)
日本人1型糖尿病患者314例を対象に、全国多施設による前向きコホート研究(TIDE-J)を行い、発症後のβ細胞機能低下(Cペプチド消失)の進行速度とその予測因子を検討した論文です。急性発症型165例、緩徐進行型105例、劇症型44例を登録し、糖尿病発症後10年でCペプチドが消失した割合はそれぞれ75%、16%、93%とサブタイプ間で大きく異なっていました。さらに、急性発症型の中でも進行速度には個人差があり、HLA遺伝子型がその違いに強く関与していました。DR4/DR4は進行が遅く、DR4/DR8やDR4/DR9は急速に進行する傾向がありました。緩徐進行型では、低BMI、GAD抗体陽性、DR2非保有がインスリン依存に至る予測因子でした。劇症型はほとんどの患者で発症から5年以内にCペプチドが消失しました。本研究は、HLA遺伝子型や臨床的特徴に基づく1型糖尿病の進行予測の有用性を示し、個別化治療につながる重要な知見を提供しています。


2025年6月24日

Type 2 Diabetes Mellitus Is a Risk Factor for Skeletal Muscle Loss in the Course of Dietary Treatment for Patients with Metabolic Dysfunction-associated Steatotic Liver Disease.
Sano A, et al.
Intern Med. 2025 Mar 1;64(5):631-641 (PMID: 39048367)

(教授コメント)
本研究は、MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)患者における食事療法が骨格筋量に及ぼす影響を検討した後ろ向き観察研究です。129例中、データ欠損のない118例を解析対象とし、開始時および12か月後に生体インピーダンス法で筋肉量を評価しました。2型糖尿病患者は28名存在していました。体重減少群では筋肉減少が多く、BMI変化と筋肉量変化に有意な相関を認めました。体重変化に対する筋肉量の減少を標準化して検討した結果、2型糖尿病が骨格筋量減少の独立因子であることが示されました。MASLDの食事療法では体重減少に伴う筋肉減少に注意が必要であり、とくに2型糖尿病をもつMASLD患者ではより高度な栄養指導が求められると思いました。


2025年6月9日

Cross-sectional and Longitudinal Associations Between Family History of Type 2 Diabetes Mellitus, Hypertension, and Dyslipidemia and Their Prevalence and Incidence: Toranomon Hospital Health Management Center Study (TOPICS24)
Ikeda I, et al.
Mayo Clin Proc 2025 Jan 27:S0025-6196(24)00615-3 (PMID: 39895435)

(教授コメント)
糖尿病、高血圧、脂質異常症における家族歴の影響を、横断的および縦断的に解析した大規模コホート研究です。41,361人を対象に、親・兄弟姉妹・祖父母の家族歴がこれら疾患の有病率および発症率と強く関連することが示されました。特に2型糖尿病では、影響を受けた家族が多くなるほどリスクが顕著に上昇し、3世代にわたる家族歴があるとオッズ比は20倍以上となりました。また、肥満(BMI≧30)との重複により、発症リスクはさらに高まりました。縦断解析では、家族歴が2型糖尿病、高血圧、脂質異常症の発症におけるもっとも強い独立因子であることが明らかになりました。詳細な家族歴の聴取は重要な医療面接の1つであることをあらためて認識しました。


2025年3月18日

<https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39827905/> Skeletal muscle adiposity, coronary microvascular dysfunction, and adverse cardiovascular outcomes.
Souza ACDAH, et al.
Eur Heart J 2025 Jan 20:ehae827 (PMID: 39827905)

(教授コメント)
骨格筋への脂肪浸潤は、筋肉の質を反映し、心血管代謝疾患の重要な決定要因である炎症と関連しています。一方、冠動脈微小血管機能障害のマーカーである冠血流予備能は心疾患イベント発症と関連することが報告されています。今回の研究では心臓負荷PET-CTで冠動脈疾患の評価を受け、正常灌流と左室駆出率が保たれていた連続症例669名を対象として、死亡と主要心血管イベント (MACE) について中央値6年間の追跡調査を行いました。冠血流予備能は、PET-CTで得られた負荷時/安静時の心筋血流量から算出し、皮下脂肪量、骨格筋量、骨格筋内脂肪量はPET-CT撮像時の第12胸椎レベルにおける面積から算出しました。骨格筋内脂肪量が1%増加するたびに、冠動脈の微小血管機能障害は2%増え、MACEは7%増えることがわかりました。心血管病の危険因子として骨格筋内脂肪量があらたに加わることにより、より予測能が高い個別化医療が可能となると思います。例えば、GLP-1受容体作動薬により減量し、骨格筋内脂肪量はどれほど減るのか?心イベントの減少につながるのか?など興味は尽きない論文でした。


2025年2月25日

Tirzepatide for Obesity Treatment and Diabetes Prevention.
Jastreboff AM, et al.
N Engl J Med 2024 Nov 13; DOI: 10.1056/NEJMoa2410819 (PMID: 39536238)

(教授コメント)
チルゼパチド(GIP/GLP-1受容体作動薬)の3年間の安全性と有効性について検討したSURMOUNT-1試験の論文です。登録時にprediabetes(前糖尿病)であった肥満症患者1,032名を対象とした無作為化プラセボ対照試験です。被験者はチルゼパチド5mg、10mg、15mg、またはプラセボ群に1:1:1:1の割合で割り付けられ、176週間の治療後、17週間の休薬期間が設けられました。176週時点での体重変化率はチルゼパチド5mg群で-12.3%、10mg群で-18.7%、15mg群で-19.7%であり、プラセボ群(-1.3%)と比較して有意な減量が認められました(P<0.001)。また、176週時点での糖尿病の発症率はチルゼパチド群で1.3%、プラセボ群で13.3%と大幅に低下し(ハザード比 0.07,P<0.001)しました。副作用は胃腸症状が多いものの、新たな安全性上の懸念は認められませんでした。われわれは普段からチルゼパチドを2型糖尿病治療薬として使用していますが、将来、肥満を有するprediabetes(前糖尿病)に対しても有望な治療薬になると思いました。


2025年1月7日

Essential Nutrients, Added Sugar Intake, and Epigenetic Age in Midlife Black and White Women: NIMHD Social Epigenomics Program.
Chiu DT, et al.
JAMA Netw Open 2024 Jul 1;7(7):e2422749 (PMID: 39073813)

(教授コメント)
National Heart, Lung, and Blood Institute Growth and Health Study(NGHS)への参加した女性342人(黒人と白人がそれぞれ171人、平均年齢39.2歳)を対象に、普段の食事パターンとエピジェネティック年齢(生物学的年齢)との関連が検討されました。唾液DNAをサンプルとしてDNAメチル化が測定され、エピジェネティック年齢はGrimAge2を用いて生物学的年齢としました。食事パターンは3日間の自記式の食事摂取記録をNutrition Data System for Reasearch (NDSR) ソフトウェア ver. 2018に入力して分析しました。健康的な食事パターン(aMED:地中海式食事の摂取指標)の人は生物学的年齢が若く、添加糖の摂取量が多い人は生物学的年齢が老いていました。糖尿病診療の基本の「き」である食事療法を見直すきっかけになった論文でした。


2024年度
2024年12月17日

Tirzepatide for Heart Failure with Preserved Ejection Fraction and Obesity.
Packer M, et al.
N Engl J Med 2024 Nov 16. Online ahead of print (PMID: 39555826)

(教授コメント)
駆出率が保たれた心不全(HFpEF)患者731名(BMI 30以上)を対象に、マンジャロ(週1回最大15 mg皮下注射)またはプラセボを少なくとも52週間投与する二重盲検ランダム化試験を実施された。の追跡期間中央値は104週間で、主評価項目である心血管死または心不全悪化イベントの複合(初回イベントまでの時間解析)はマンジャロ群で9.9%、プラセボ群で15.3%(HR 0.62, P=0.026)であった。さらに、52週時点のKansas City Cardiomyopathy Questionnaire(KCCQ)という心不全患者さんのQOL指標もマンジャロ群で有意に高く、6分間歩行距離も有意に歩けるようになった。しかし、消化器系の副作用による中止率はマンジャロ群で6.3%、プラセボ群で1.4%であった。本研究はBMI 30以上の患者に限定されてはいたが、登録患者の約半数が糖尿病患者で、しかも2割弱がアジア人であったことから、日本の糖尿病医や循環器内科医にも大きなインパクトを与える論文であったと思う。


2024年11月5日

A Glycemic Threshold Above Which the Improvement of β-Cell Function and Glycemia in Response to Insulin Therapy Is Amplified in Early Type 2 Diabetes: The Reversal of Glucotoxicity.
Retnakaran R, et al.
Diabetes Care 2024 Nov 1;47(11):2017-2023 (PMID: 39302842)

(教授コメント)
早期の2型糖尿病患者(発症から約1.8年)108名を対象に、3週間にわたって短期の集中的インスリン療法(グラルギンとリスプロ)を実施し、治療前後に経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を行ってβ細胞機能やインスリン感受性などを評価したカナダからの研究です。短期の集中的インスリン療法はβ細胞機能の回復や血糖値の改善をもたらしましたが、治療前の空腹時血糖値が9.3mmol/Lを超えるとβ細胞機能の改善や血糖値の改善が非線形的に増強されることがわかりました。空腹時血糖9.3mmol/Lは約170mg/dLに相当しますが、この数値に改善程度の明らかな変曲点があったことは新たな発見でした。短期の集中的インスリン療法によるブドウ糖毒性の解除に関する機序がより明らかになり、新しい糖尿病治療につながるきっかけになれば良いですね。


2024年10月1日

Tirzepatide for Metabolic Dysfunction-Associated Steatohepatitis with Liver Fibrosis.
Loomba R, et al.
N Engl J Med Jul 25;NEJMoa2401943 (PMID: 38856224)

(教授コメント)
代謝障害関連脂肪肝炎(MASH)は肝関連合併症および死亡と関連する進行性肝疾患です。本試験(SYNERGY-NASH)では、肝生検で診断された肝線維化が中等度または高度のMASHに対するGIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチドの有効性と安全性を明らかにしました。参加者はチルゼパチド(5 mg,10 mg,15 mg のいずれか)を週 1 回52 週間皮下投与する群とプラセボを投与する群に無作為に割り付けられました。主要評価項目であるMASH 改善率(resolution)はプラセボ群10%に対して、チルゼパチド 5mg群44%、10mg群56%、15mg群62%とすべてのチルゼパチド群で有意に良い結果でした。副次的評価項目である肝線維化についても、プラセボ群に対して、すべてのチルゼパチド群で有意に良い結果でした。これらの結果は代謝疾患を扱う内科医にとっても朗報です。


2024年9月3日

Combination SGLT2 Inhibitor and Glucagon Receptor Antagonist Therapy in Type
1 Diabetes: A Randomized Clinical Trial.
Boeder SC, et al.
Diabetes Care 2024 May 22:dc240212 (PMID: 38776437)

(教授コメント)
1 型糖尿病患者におけるインスリン治療にSGLT2阻害薬とグルカゴン受容体拮抗薬を併用する意義についての報告です。試験はランダム化二重盲検プラセボ対照のクロスオーバー法で行われました。「ベースライン」と「SGLT2阻害薬だけを追加」と「SGLT2阻害薬+グルカゴン受容体拮抗薬追加」の3群で比較されました。グルカゴン受容体拮抗薬はボラギデマブ (70 mg/週) が使用されました。CGMで評価された血糖指標は「SGLT2阻害薬+グルカゴン受容体拮抗薬追加」で良質な血糖であり、インスリン必要量も少ない治療が可能でした。また、インスリン治療を中断してケトン体を誘発する試験(insulin withdrawal test)では「SGLT2阻害薬+グルカゴン受容体拮抗薬追加」でケトン体増加が抑えられており、さらに患者の治療受容性と満足度が向上していました。

1 型糖尿病患者では正常血糖ケトアシドーシスなどのリスクからSGLT2 阻害薬の使用を躊躇する場合があります。グルカゴン受容体拮抗薬は1型糖尿病患者さんにもSGLT2阻害薬の恩恵(心・腎保護作用)を届けやすくなる可能性があります。


2024年8月6日

Maternal birth weight as an indicator of early and late gestational diabetes mellitus: The Japan Environment and Children's Study.
Tagami K, et al.
J Diabetes Investig 2024 Jun;15(6):751-761 (PMID: 38391358)

(教授コメント)
69318人の日本人妊婦の出生コホートを使って、母親の出生時体重と早期および後期の妊娠糖尿病(GDM)との関連を明らかにしました。母親の出生体重3000-3499gを基準としたとき2500g未満および2500~2999gであった母親の妊娠(早期)糖尿病発症リスクは、1.35倍と1.34倍であった。妊娠(後期)糖尿病発症リスクは1.66倍と1.22倍であった。日本における低出生体重児の出生割合は近年増加しており、将来の妊娠糖尿病発症に注意が必要である。


2024年7月2日

Active vitamin D treatment in the prevention of sarcopenia in adults with prediabetes (DPVD ancillary study): a randomised controlled trial
Kawahara T, et al.
Lancet Healthy Longev 2024 Apr;5(4):e255-e263. (PMID: 38437855)

(教授コメント)
いままでに、血清ビタミンD濃度とサルコペニア発症との間に逆相関があることは疫学調査で分かっていましたが、ビタミンD投与による治療がサルコペニアの発症を予防するかどうかは不明でした。この研究では活性型ビタミンD(エルデカルシトール[0.75μg/日])による治療が、糖尿病予備群の成人におけるサルコペニアの発症を抑制できることを明らかにしました。有害事象の発生率は両群間で有意差がありませんでした。エルデカルシトールは日本と中国では骨粗鬆症の治療薬として承認されていますが、本研究では筋量および筋力を増加させることによりサルコペニアの発症を予防し、転倒リスクを大幅に減少させる可能性があることがわかりました。高齢者糖尿病ではサルコペニアに留意した診療が求められる昨今、参考になる論文でした。


2024年6月11日

Internet of things-based approach for glycemic control in people with type 2 diabetes: A randomized controlled trial.
Bouuchi R, et al.
J Diabetes Investig 2024 Online ahead of print (PMID: 38712947)

(教授コメント)
PRISM-J研究は2型糖尿病患者を対象としてIoT (internet of things) を活用したアプローチが長期にわたる血糖コントロールに有用であるかどうかを調べた研究です。1159人の2型糖尿病を有する成人を無作為にIoTベースのアプローチ群 (ITG) 群とコントロール群 (CTG) に割り付け、ITG群は体重、血圧、身体活動の概要と食事と運動に関する行動変化を促すフィードバックメッセージがIoT自動化システムで提供されました。主要評価項目は52週間にわたるHbA1cの変化でしたが、群間に有意差を認めませんでした。しかし、IoTを毎日活用していた患者に限ったPer Protocol解析ではHbA1cの低下が認められたことから、IoTに親和性のある患者さんには有用なアプローチだと思います。今回の研究では血糖情報を収集していないIoTシステムでしたが、今後、血糖情報が加わったIoTシステムではどのような結果がでるのか楽しみです。


2024年5月7日

Short-term recovery of insulin secretion in response to a meal is associated with future glycemic control in type 2 diabetes patients.
Enkaku A, et al.
.J Diabetes Investig 2024 Apr;15(4):437-448. (PMID: 38151917)

(教授コメント)
富山大学病院に血糖コントロール目的で入院した2型糖尿病患者を対象とした臨床研究です。入院食を摂食後に上昇する血中Cペプチドの変化をインスリン分泌指標として3つ(index A, B, C)提唱し、入院時と比べて退院時で増加したそれらの指標は、将来の良好な血糖コントロール維持を予見しうる可能性を述べています。入院という短期間におけるインスリン分泌能の回復の程度を指標とした研究は今までになく、われわれの日常診療に応用できる有益な論文でした。